子どもの成長は”急がば回れ”

「急がば回れ」という言葉があります。

目的を急ぐあまり近道を選ぼうとするよりも、遠回りに見える道を着実に歩むほうが、

結果として早く、確実に到達できるという意味です。

教育の場においても、この考えは非常に重要です。

子どもの学力や成長を願うあまり、結果を焦ってしまう大人は少なくありません。

しかし、真の成長とは時間をかけて育まれるものです。

成果を急いて無理に伸ばそうとすれば、かえって子どもの心の成長を妨げてしまうことさえあります。

 

学力の三要素は?

文部科学省が掲げる「学力の三要素」は、次の三つです。

一つ目は「知識及び技能の習得」。

二つ目は「思考力・判断力・表現力等の育成」。

そして三つ目が「主体的に学習に取り組む態度(主体性・多様性・協働性)」です。

これら三つの要素は、どれか一つが欠けても真の学力とは言えません。

特に三つ目の「主体的に学習に取り組む態度」は、単なる勉強への意欲ではなく、

自ら学ぶ意味を見出し、他者と協働しながら学びを広げていく姿勢を指しています。

この力こそ、子どもの将来にわたる学びの原動力となるものです。

 

学びの基礎から

まず、最初の要素である「知識及び技能の習得」は、学びの基礎であり、土台にあたります。

漢字や計算、語彙、文法など、日々の積み重ねによって身につく力です。

しかし、知識や技能だけを覚えさせても、学力が定着するとは限りません。

表面的に覚えた知識は、使う場面がなければすぐに忘れてしまうからです。

 

活用する力を養う

次に、「思考力・判断力・表現力等の育成」は、学んだ知識を活用し、

自ら考え、他者に伝える力を養うことを意味します。

知識を使って「なぜそうなるのか」を考え、自分の考えを整理して表現する力が求められます。

この力は、単なる暗記型の学習では育ちません。

自分で課題を見つけ、試行錯誤する過程の中で、初めて身についていくものです。

 

今の時代だからこそ・・・

そして三つ目の「主体的に学習に取り組む態度(主体性・多様性・協働性)」は、

今の時代において特に重視されています。

主体性とは、自ら考え、自ら動く力。

多様性とは、他者の意見や考え方の違いを受け入れ、尊重できる力。

そして協働性とは、仲間と力を合わせ、共に学び合う姿勢です。

これらは、学びを“人と人との関わり”の中で育てていくという考え方に基づいています。

しかし、この「主体的に学習に取り組む態度」は、指導者が短期間で育てることはできません。

子ども自身の心の中に、「学ぶことの意味」や「学びたいという意欲」が芽生えなければ、

どれほど丁寧に教えても、本当の学力は育たないのです。

だからこそ、「急がば回れ」なのです。

子どもの学習において成果を急ぐよりも、まずは学ぶ意欲の土台をつくることが何より大切です。

 

たとえば、ある子どもが算数の文章問題に苦手意識をもっていたとします。

大人がすぐに解き方を教え、「こうやるんだよ」と答えを示してしまえば、

一見すると理解できたように見えます。

しかし、そのとき子どもは「自分で考えてできた」という経験をしていません。

次に似たような問題に直面したとき、また同じように答えを待つだけになってしまいます。

反対に、時間をかけてでも、子どもが自分の頭で考え、

間違いを重ねながら答えを導き出したなら、その経験は深い学びとして心に残ります。

そして、「やればできる」という成功体験が次の意欲を生み出すのです。

 

経験が肝要

この「自分で考え、乗り越えた経験」が、主体的な学びを支える根本的な力となります。

大人が焦って結果を求めすぎると、子どもの挑戦する意欲を奪ってしまいます。

失敗を恐れず、試行錯誤を重ねる過程こそが、学力の本質を育てる時間なのです。

 

また、子どもが「なぜ学ぶのか」という学習の必要性を感じられるようにすることも重要です。

勉強の意味がわからないままでは、どんなに頑張っても学びは義務になってしまいます。

「計算ができれば買い物が楽になる」「漢字を覚えると好きな本が読める」

「歴史を学ぶと今の社会の成り立ちがわかる」など、

日常生活や興味と結びつけて学びの意義を伝えることで、学習は“自分ごと”となります。

そうして初めて、「学びたい」という内発的な意欲が生まれるのです。

 

このように、学習の必要性を理解し、意欲をもって取り組むことができる子どもは、

学力の三要素をバランスよく伸ばしていきます。

知識や技能を学ぶ過程で、思考力や判断力を育て、仲間と協働しながら表現力を磨き、

さらに自らの意志で学び続ける力を身につけます。

この循環が、子どもの成長の理想的な姿です。

 

しかし、それを育てるには、どうしても時間がかかります。

すぐに成果が見えない時期もあります。

けれども、その“見えない時間”こそが、子どもが心の中で学びを消化し、

理解を自分のものにしていく大切な過程なのです。

焦らず、信じて、見守ること。それが大人に求められる姿勢です。

 

「教える」よりも「育てる」が難しいと言われます。

なぜなら、育てるには忍耐と信頼が必要だからです。

大人が焦れば焦るほど、子どもは自信を失い、学びから距離を置いてしまいます。

だからこそ、「急がば回れ」の精神で、子ども自身が主体的に学び、

他者と協働しながら学びを楽しむ姿を大切にしたいのです。

 

子どもの成長には順序があります。

心が育ち、意欲が芽生え、行動へとつながり、やがて成果となって表れる。

その順序を逆にして成果だけを求めてしまうと、

心の根が育たないまま花だけを咲かせようとすることになります。

私たち大人は、その根をしっかりと育てるための

「待つ力」を持たなければなりません。

 

真の学びは、急がずに積み重ねた時間の中でこそ育ちます。

結果よりも過程を大切にし、子どもが自ら考え、感じ、表現する力を信じて見守る。

そうした姿勢の先にこそ、学力の三要素すべてが調和した、本当の意味での成長があるのです。

 

子どもの成長は急がば回れ。遠回りに見える道こそ、

子どもが自分の足で歩み、自分の力で未来を切り開くための道なのです。

焦らず、比べず、信じて待つ。

私たちはその道を共に歩む伴走者として、子どもたちの一歩一歩を支えていきたいものです。