子どもの自己表現力を成長させる

現代の子どもたちは、SNSやデジタルツールに囲まれて生活しています。

その一方で、自分の思いや考えを言葉で相手に伝える「自己表現力」の乏しさが懸念されています。

ある調査(※)によれば、「言いたいことをうまく言葉にできない」「相手にどう伝えていいかわからない」と感じている

小中学生が年々増加しているという結果も出ています。

こうした現状は、学校や家庭での人間関係にも影響を与え、

時にいじめや孤立を引き起こすこともあるのです。

では、子どもたちの自己表現力を育てるには、私たち大人はどのような環境や働きかけができるのでしょうか。

「語彙力」「コミュニケーション力」「社会性」「協調・協働の力」の観点から考えていきたいと思います。

 

語彙力が自己表現の土台になる

自己表現力とは、自分の気持ちや考えを、適切に言葉や態度で表す力のことです。

その力を育むために欠かせないのが「語彙力」です。言いたいことがあっても、

それを表す言葉を知らなければ、表現することはできません。

語彙力を育てるために大切なのは、日常の生活の中で「ことばに触れる機会」を増やすことです。

たとえば、読書は語彙を増やすもっとも効果的な手段の一つです。

絵本、児童文学、新聞記事、説明文、小説など、さまざまなジャンルの文を読むことで、

子どもたちは知らなかった言葉に出会い、表現の幅を広げていきます。

 

また、読み聞かせも有効です。幼いころから親や教師が本を読んであげることで、

音声としての語彙が蓄積され、自然と自分の言葉として定着していくのです。

さらに、日常の会話の中でも、「これはどういう意味かな?」「別の言い方をするとどうなるかな?」と、

言葉の意味や使い方について考える習慣をつけることが大切です。

語彙が増えることで、子どもたちはより正確に、より豊かに、

そしてより柔らかく思いを表現できるようになります。

これが、次に述べる「コミュニケーション力」の向上にもつながっていきます。

 

コミュニケーション力を高める日々のやり取り

自己表現力を育てるうえで重要なもう一つの要素が「コミュニケーション力」です。

これは、ただ言葉を発するだけでなく、

「相手に伝わるように話す」「相手の反応を見ながら伝え方を工夫する」

「相手の気持ちを想像する」などの力を含んでいます。

 

子どもたちのコミュニケーション力を育てるには、まず「安心して話せる環境」が必要です。

大人が子どもの話にしっかり耳を傾け、否定せずに受け止めることが、

子どもにとって「自分の気持ちを話しても大丈夫」という安心感を生み出します。

 

また、家庭や学校、学園での「対話」の時間は大切です。

「今日はどんなことがあった?」「どんな気持ちだった?」と問いかけ、

子どもが言葉で表す機会を作ってあげるのです。

そして、「うれしかったんだね」「それは悔しかったね」と気持ちを言語化してあげることで、

子ども自身も自分の感情を整理できるようになります。

 

こうしたやり取りの中で、相手に自分の気持ちを伝える方法や、聞く姿勢の大切さを学んでいきます。

やがてそれが、トラブルやすれ違いを回避するためのスキルへとつながり、

よりよい人間関係の構築へと発展していきます。

 

社会性は「他者」との関係の中で育つ

自己表現力は、「一人で育つ力」ではありません。

友だち、先生、家族、地域の人々といった「他者」との関係の中でこそ、育っていく力です。

このような中で養われるのが「社会性」です。

社会性とは、他人と関わりながら円滑に生活していくための力です。

ルールやマナーを守ること、相手の立場や気持ちを考えること、

場面に応じた言動を取ることなどが含まれます。

自己表現力は、社会性とバランスよく育てることで、わがままや自己中心的な言動を防ぎつつ、

自分の思いをきちんと伝えられるようになるのです。

 

社会性を高めるには、子ども同士が関わる場を意識的に増やしていくことが効果的です。

たとえば、班活動やグループ学習、地域のイベント、

スポーツ活動などでは、自然と他者との協調が求められます。

そこで経験する「自分の意見を言う」「相手の意見を聞く」

「どう折り合いをつけるか考える」といった体験が、自己表現力の礎となるのです。

 

また、他者と過ごす中でぶつかることや衝突することもあるでしょう。

そうした体験こそが、相手の考えを理解しようとするきっかけとなり、

自分の伝え方を見直すきっかけにもなります。

子どもにとっては失敗や葛藤の中にも大きな学びがあるのです。

 

協調・協働の学びから「伝え合う力」へ

協調・協働の学びは、まさに現代の教育現場でも重視されているキーワードです。

これは、「他者と協力して課題を解決する力」や「チームで目的を達成する力」を育てる学習です。

これを通して、自己表現の力も大きく育っていきます。

 

たとえば、探究型のグループ学習では、自分の考えをまとめ、

チームの中で共有し、役割分担をしながら協力して成果を出していきます。

その過程では、「どう伝えれば仲間に伝わるか」

「どのように意見を出し合えばよいか」といった表現の工夫が求められます。

 

また、仲間と同じ目標に向かって取り組むことで、

自分の表現が「相手に伝えるためだけのもの」ではなく、

「共に良いものをつくるための手段」になることにも気づいていきます。

つまり、自己表現が「他者とつながるための表現」へと広がっていくのです。

 

大人ができる支援としては、グループ活動を見守りながら、

必要に応じてファシリテーターとして介入し、

子どもたちが「自分の考えを安心して言える環境」「他者の意見に耳を傾ける姿勢」

を築けるよう支援することです。

また、活動のあとに「話し合いではどう感じたか」「もっとこう言えばよかったと思うことは?」といった

振り返りの時間を設けることも有効です。

 

「伝えたい」と思える経験を

最後に、自己表現力の育成において最も大切なことは、

「伝えたいと思える経験」を子どもに積ませることです。

何かに感動した、自分なりに一生懸命考えた、大好きなことを人に教えたい・・・

そうした「伝えたい!」という気持ちこそが、表現力を育てる最大の原動力となるのです。

 

私たち大人は、子どもたちがそんな経験をたくさんできるような

「環境」と「かかわり」を意識していく必要があります。

ことばのシャワーをたっぷりと浴びせ、心の声にじっくりと耳を傾け、

時に一緒に悩み、そして一緒に喜ぶ。そうした関わりの中で、

子どもたちは少しずつ「自分の思いを伝える力」を育んでいくことでしょう。

子ども一人ひとりの中に眠っている「伝える力」は、

育てる環境と信じて待つ大人の眼差しがあってこそ、芽を出し、花を咲かせるのです。

 


 

※ 注釈

国立青少年教育振興機構『高校生のコミュニケーションに関する実態調査(2022年)』

調査内容の要点:

高校生の約45%が「自分の気持ちや考えを相手にうまく伝えるのが難しい」と回答。

また、「相手の立場や気持ちを考えるのが難しい」と感じている割合も増加傾向にある。

SNSを通じたやり取りの増加により、直接的な対話機会が減少していることも影響していると分析されている。

この調査は、高校生を対象に行われたものですが、近年の小中学生にも同様の傾向が見られるとする関連報告も複数あります。