思いがけないことが、成長のチャンス

子どもの成長は、予定された道筋を歩むだけでは得られないことが多々あります。

むしろ、思いがけない出来事や失敗、挫折に直面したときにこそ、

人は自分と向き合い、新たな可能性を見いだすものです。

以下では、ある一人の生徒の経験を通して、

失敗や困難を「成長のチャンス」として受け止めることの大切さについて考えてみたいと思います。

 

ある生徒のつまずき

あるAさんは、学園でも明るく友達も多い生徒でした。

しかし、学習面では得意不得意がはっきりしており、

苦手な教科に取り組むときには不安や焦りを隠せないことがありました。

ある日、小テストで思うような結果を出せなかったことをきっかけに、

Aさんは自分に自信をなくし、学校へ行く気力を失ってしまいました。

翌朝、体調が悪いわけでもないのに、Aさんは学校に行く準備を途中で止めてしまい、

布団にもぐり込みました。

「どうせ私なんか、何をやってもうまくいかない。」そんな思いが胸を占め、

気がつけば何日か学校を休むようになっていったのです。

 

指導員との出会い

ある日、ある指導員はAさんの欠席が続いたとき、

ある指導員が家庭を訪問しました。

その指導員は、A君を責めることなく、まずは静かに彼の話を聴きました。

「あって当たり前だよ、それは誰にでも起こりうることだよ。」
「今日をあの日にして、大切なのはこれからだよ。」

その言葉に、Aさんの心は少し揺れました。

今まで「できない自分」を責め続けていた彼にとって、

「誰にでもあること」という受け止めは救いとなったのです。

そして「今からどうしたいか」という問いは、

自分自身に目を向け直すきっかけとなりました。

 

自分を見つめ直す時間

指導員は、学校に戻ることを急かしませんでした。

その代わりに、Aさんが自分の思いを整理する時間を大切にしました。

Aさんは少しずつ「本当はどうしたいのか」に気づいていきました。

ある日、Aさんはぽつりとつぶやきました。
「私、何が何でも高校へいきたい。いや、もちろんその先も大学にもいきたい・・・」

指導員はその言葉をしっかりと受け止め、苦手があることは悪いことではなく、

むしろ好きなことを伸ばすことで自信を回復できると励まされたのです。

 

失敗をチャンスに変える

Aさんは、指導員と一緒に「小さな挑戦」を始めました。

例えば、苦手な英語の問題を一問だけ解いてみる、

英語で短い日記を書いてみる、といった取り組みです。

最初は戸惑いながらも、「一問できた」「一行書けた」という成功体験は、

Aさんに確かな自信を与えていきました。

そして、以前は「できないから嫌だ」と避けていた英語にも、

少しずつ前向きに取り組めるようになっていきました。

こうした小さな挑戦と成功の積み重ねは、

「失敗=終わり」ではなく「失敗=成長のチャンス」という

新しい価値観をAさんの中に育んでいきました。

 

周囲との関わりの中で

学園にも行こうとしているAさんに「はやく、みんなと会いたい?」と尋ねました。

Aさんは少し恥ずかしそうにうなずきました。

しばらく会えなかった友達と再会することは、

彼にとって大きな不安でもあり、同時に喜びでもありました。

復帰の日、友達の一人が「おかえり!」と声をかけてくれました。

その瞬間、Aさんの目に涙が浮かびました。

自分は一人ではなく、支えてくれる人たちがいる。

その実感は、彼の人間力を大きく育てる糧となりました。

 

思いがけない出来事が育む人間力

Aさんの経験から学べるのは、思いがけないつまずきや失敗こそが、

人を成長させる大きなチャンスだということです。

もしAさんが一度も失敗せず、順調に学校生活を送っていたら、

自分を深く見つめ直し、本当に好きなことを再発見する機会はなかったかもしれません。

教育において重要なのは、

子どもが失敗しないように道を整えることではなく、

失敗を恐れず挑戦できる環境を用意することです。

そして、失敗をしたときに

「それはチャンスだよ」

と受け止めてくれる大人の存在が不可欠です。

失敗を肯定的にとらえ、そこから学ぶ経験こそが、人間力を大きく育てるのです。

 

今の時代に必要な視点

現代社会は変化が激しく、正解が一つではない課題にあふれています。

そのような時代に必要なのは、与えられた知識を正確に覚える力だけではありません。

失敗から立ち直り、自分の強みを活かし、新たな挑戦を続ける力です。

Aさんが体験したように、思いがけない出来事に直面したときに

「これは成長のチャンスだ」

と捉えられるかどうかが、これからの子どもたちにとって大きな分かれ道となります。

だからこそ教育の現場や家庭では、

子どもが失敗しても安心してやり直せる環境を整えることが大切です。

 

結びにかえて

学校を休んでしまったA君の経験は、一見すると後退のように見えました。

しかし実際には、自分を見つめ直し、

新たな可能性を切り開くための大切な時間となりました。

指導員の一言が、彼の心に光を灯し、失敗をチャンスに変える力を育んだのです。

 「思いがけないことが、成長のチャンス」・・・

この言葉は、子どもだけでなく大人にとっても真実です。

誰もが予想外の出来事や失敗に直面しますが、

そのときにこそ私たちは成長し、新しい道を見つけることができます。

教育の使命は、その瞬間を支え、

子どもたちが自らの可能性を信じて歩み出せるように伴走することにあるのです。