子どもの背中を”おす”

明日、大学のオープンキャンパスへ出かける生徒が5名。

そのうちの1人は高校へ入ったばかりの高校一年生。

また、3人は本命に絞った高校3年生。

お互いにどのような個所を体験しようか?質問しようかと考えていました。

中でも、高校1年生のある子は、これからの高校生活において、自分がどのような方向へ行くべきか?占うために・・・

自分の本当のすべき勉強を知るために実際に大学へと赴きます。

 

私たちは日々、子どもたちと関わる中で、

「あと少しなのに」「頑張ればできるのに」と感じる場面に出会います。

そのようなとき、「もうちょっと背中をおしてあげたいな」と思うことがあるのではないでしょうか。

しかし、この「背中をおす」という表現には、実に奥深い意味が込められています。

そして、その「おし方」によっては、子どもの未来への一歩を照らす光にもなれば、

時にはその歩みを止めてしまうことにもなりかねません。

今回は「推す」「押す」「圧す」といった言葉の違いに目を向けながら、

子どもが新たな挑戦や自分自身を信じて進んでいけるように、

大人としてどのように背中をおせばよいのか、一緒に考えてみたいと思います。

 

「推す」という関わり方 〜そっと寄り添う力〜

 

近年では、アイドルやキャラクターに対して「推し活」という言葉が一般化しました。

人は自分の「推し」を応援し、その魅力を周囲に伝え、時にはグッズを買って支援し、

ときにただ「見守る」だけという応援の形もあります。

この「推す」は、実は子どもへの関わり方としてとても大切な姿勢です。

「推す」とは、無理やり前に出させるのではなく、

「私はあなたの味方だよ」「あなたには魅力がある」と伝えること。

すなわち、子どもが自ら進もうとする力を信じて支えることなのです。

ある中学生の女の子は、絵を描くことが好きでしたが、自分の絵に自信がもてず、

美術部に入るか迷っていました。

そのとき、担任の先生が彼の絵をじっくり見て、

ただ一言、「この構図、すごくいいと思うよ」と伝えました。

先生は決して「部活に入りなさい」とは言いませんでしたが、

その言葉が彼の心に残り、翌日、美術部に入部届を出しました。

これはまさに、「推す」関わり方。

直接的な指示や強制ではなく、「あなたの力を信じている」という姿勢が、

子どもの一歩を支えたのです。

 

「押す」という関わり方 〜タイミングを見極める勇気〜

一方で、「押す」には物理的な力が感じられます。

背中をぐっと押すという行為は、ある種の力を伴う介入です。

しかし、それが悪いというわけではありません。

人には、どうしても自分では踏み出せない瞬間があります。

まるでプールの飛び込み台に立って、怖くて固まってしまう子どものように。

そんなときには、「大丈夫、いってごらん!」と軽く背中を押すことも必要です。

まさに、タイミングと信頼関係が重要になるのです。

ある小学5年生の女の子が、学習発表会の前日に「もうやめたい」と泣き出したことがありました。

「失敗したらどうしよう」「みんなの前に出るのが怖い」と震える彼女に、

そのお母さんはこう言いました。

「あなたがどんな演奏をしても、お母さんはあなたがステージに立っただけですごいと思うよ。

でもね、一度だけでいいからやってごらん。きっと、未来のあなたが今の自分を誇りに思うはずだから」と。

その言葉に彼女はうなずき、翌日ステージに立ちました。

演奏は完璧ではありませんでしたが、その後の彼女の顔は、何よりも晴れやかだったといいます。

あの時の母親の言葉は、まさに「押す」行為だったのです。

 

「圧す」という関わり方 〜避けるべきプレッシャー〜

さて、「圧す」という言葉もまた、「おす」と読めますが、意味合いはかなり異なります。

「圧力をかける」「圧倒する」など、相手に重たくのしかかるような力です。

教育や子育てにおいて、この「圧す」関わり方は、できるだけ避けたいものです。

たとえば、「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」「みんなはできているのに、

どうしてあなたは…」というような言葉は、子どもに重たい圧をかけてしまいます。

一見、子どものためを思って言った言葉でも、

その裏には「期待」「不安」「大人の都合」が隠れていることがあります。

結果として、子どもは「どうせ自分はだめだ」と感じ、自己肯定感を失っていきます。

ある男子高校生は、常にテストで90点以上を取らなければならないという無言のプレッシャーに耐えていました。

親は「期待してる」と言うだけで、彼を褒めることも、ねぎらうこともありませんでした。

やがて彼は体調を崩し、学校を休むようになりました。

このように、「圧す」関わり方は、子どもの成長にとって決してプラスにはなりません。

私たち大人は、知らず知らずのうちに「圧」になっていないか、常に振り返る必要があります。

 

一歩を踏み出す「きっかけ」の大切さ

どんなに能力のある子でも、どんなに可能性を秘めた子でも、

その力を発揮するには「きっかけ」が必要です。

それは、ちょっとした言葉かもしれませんし、たまたま参加した行事かもしれません。

あるいは、大人の何気ない姿勢かもしれません。

大切なのは、「そのきっかけをつかめる環境」があること。

そして、子ども自身が「やってみようかな」と思える空気が流れていることです。

種が芽を出すには、水と太陽と、温かい土が必要です。

人間の心も同じです。

好奇心という名の種に、安心という水、信頼という太陽、

そして自由という土を与えてこそ、芽が出るのです。

 

「推す」「押す」「圧す」…子どもに応じた関わり方を

 

まとめると、子どもの背中を「おす」には、その子の状況、性格、気持ちに応じた関わり方が必要です。

「推す」:そっと寄り添い、信じて支えること。子どもの魅力を伝え、安心感を与える。

「押す」:タイミングを見極め、やさしく一歩踏み出す勇気を与えること。背中をポンとたたくような行動。

「圧す」:過剰な期待や比較でプレッシャーをかけること。これは避けるべき関わり方。

子どもは一人ひとり違います。

成長の速度も、関心のあることも、心の準備も、みんな違うのです。

だからこそ、「こうすれば正解」という関わり方はありません。

しかし、どの子も「きっかけ」を待っているという点では共通しています。

そのきっかけを与えられる存在として、

私たち大人はどうあるべきかを日々問い直しながら、子どもたちのそばに立ち続けたいものです。

最後に、こう願います。

「今日、あなたがかけた一言が、明日の子どもの背中をそっとおしているかもしれません。」