子どもと関わるうえで、信頼関係は何よりも大切な土台となります。
しかし、その信頼を築くのは一朝一夕にはいきません。
大人がどれほど真剣であっても、子どもが心を開いてくれなければ、その思いは届かないこともあります。
そこで大切になるのが、「遊び心」です。
大人が本気で子どもと遊び、楽しみ、笑う。
その姿勢こそが、子どもにとって「この人はわかってくれている」「一緒にいて楽しい」と感じられる第一歩となるのです。
子どもは「遊び」で生きている
子どもにとって「遊び」は、ただの娯楽ではなく、世界と出会い、感じ、自分を表現する大切な営みです。
遊びの中でこそ、子どもは自分の考えや想像力を存分に発揮します。
そして、大人がその世界に本気で飛び込むことで、子どもは「自分の世界を認めてもらえた」と深い安心を覚えるのです。
ある小学校低学年の男の子が、授業中にはほとんど発言しないのに、
休み時間になるとゲームの物語を友達に熱く語っていたことがありました。
その子に興味をもち、ある指導員はある日、
彼に「続きを聞かせてくれない?」と声をかけました。
すると、彼の目が輝き、「じゃあ先生はこの役ね!」と即席の演劇が始まったのです。
私は彼の世界に入って本気で演じました。そこから彼との関係が一気に変わり、
学校の授業中も少しずつ手を挙げるようになりました。信頼は、こうして“遊びの中”で育まれていったのです。
大人にこそ必要な「遊び心」
私たち大人は、日々の責任や役割に追われ、
どうしても「正しく導くこと」「注意すること」に力が入りがちです。
しかし、子どもにとっては、大人の真面目すぎる言動が、
時に「怖い」「近づきにくい」と感じられてしまうこともあります。
そんなときこそ、大人に「遊び心」が必要なのです。
ふざけすぎるという意味ではありません。ユーモアや柔らかさ、
思いがけないリアクション、時には一緒に全力で泥んこになって遊ぶ姿勢・・・
そうした関わりが、子どもの心の扉をそっと開いてくれるのです。
たとえば、宿題をやらずに登校した子どもがいたとして、頭ごなしに叱るのではなく、
「おっ、宿題という言葉にアレルギーが出たかな?治療する方法、一緒に考えよう!」とユーモアを交えて話しかけることで、
子どもは責められたという感覚を持たずに、自ら反省するきっかけになるかもしれません。
成功体験から学ぶ「信頼を育てる遊び心」
ある学級で、学級崩壊寸前だったクラスに赴任した教師がいました。
子ども同士のトラブルが絶えず、教師に対しても反発が強い状況でした。
その中で彼がとったのは、「遊びを通してつながる」アプローチでした。
授業の中にゲーム性を取り入れたり、放課後には鬼ごっこやボードゲームを一緒にしたりと、
まずは子どもたちと笑い合う時間を作ることに専念したのです。
すると、少しずつ子どもたちの態度が変わっていきました。
「先生、今日も一緒に遊ぼう!」「あのクイズ、またやりたい!」と、笑顔と会話が増え、
徐々に学級に落ち着きが戻ってきたのです。その教師は言います。
「子どもと信頼関係ができたら、あとは自然とこちらの話も聞いてくれるようになる」と。
遊び心が、信頼という名の扉を開いた成功体験でした。
失敗体験から気づいた「押しつけない関わり」
一方、私自身が失敗した経験もあります。以前、ある子どもにもっと積極的になってもらいたいという思いから、
毎日のように声をかけ、励まし、時に課題を与えるような関わりをしていました。
しかし、その子はどんどん無表情になっていき、しまいには話しかけても目をそらすようになってしまいました。
当時の私は「応援しているつもり」でしたが、子どもの気持ちを置き去りにしていたのです。
大切なのは、子どものペースや特性に寄り添うことでした。
あのとき、もっとその子の好きなこと、安心することに目を向けていれば、
違った結果になっていたかもしれません。
信頼は、決して「頑張らせることで生まれる」のではなく、
「一緒に楽しむことで育つ」ものなのだと痛感しました。
「共に育つ」・・・共育の視点をもつ
「教育」とは、ただ教え導くものではありません。「共育」という言葉があるように、
大人もまた、子どもとの関わりの中で育てられていく存在です。
子どもと関わる中で、自分の未熟さに気づいたり、忘れていた大切な感情を思い出したりすることがあるはずです。
子どもは時に、大人に予測不可能な問いや行動を投げかけます。
その一つひとつに真摯に向き合い、時に笑い、時に迷いながら共に答えを探す。
そのプロセスが、まさに「共育」です。
大人が自ら学び、変わり続ける姿こそが、子どもにとって最も信頼できる存在であり、
「一緒にいて安心できる人」なのだと思います。
子どもの個性・特性に応じた関わり
すべての子どもが同じ関わりで心を開くわけではありません。
ある子は外で走り回ることが好きで、ある子は静かに絵を描くことを好む。
ある子はじっくり話を聞いてほしいタイプで、ある子は言葉よりも行動で気持ちを表現するタイプ。
だからこそ、大人には子ども一人ひとりの特性・個性をしっかりと理解しようとする姿勢が求められます。
例えば、感覚過敏がある子どもに対して、賑やかな場での活動ばかりを強いることは逆効果です。
その子が安心して参加できる形を探る工夫が必要ですし、
「どうしたら君も楽しくできるか、一緒に考えよう」と寄り添う姿勢が信頼を生みます。
一人ひとりに違うアプローチがあっていい。遊び心をもって、
柔軟に関わり方を変えていくことが、結果としてその子に合った信頼の築き方になるのです。
信頼は「共に笑った経験」の積み重ね
子どもの信頼を得るために、知識や指導力も確かに大切ですが、
何よりも大人の「遊び心」が子どもの心に届く鍵になります。
一緒に笑った、ふざけた、夢中になった――そうした経験の中にこそ、深くて温かい信頼の芽が育っていくのです。
そして私たち大人もまた、子どもと関わることで、人間として育っていきます。
信頼は一方通行ではなく、双方向の関係性の中で育まれるもの。
「共に育つ共育」の視点を忘れずに、
今日も子どもたちと笑い合える時間を大切にしていきたいものです。