「あの坂をのぼれば」杉みき子
あの坂をのぼれば、海が見える。
少年は、朝から歩いていた。
草いきれがむっとたちこめる山道である。
顔も背すじも汗にまみれ、休まず歩く息づかいがあらい。
あの坂をのぼれば、海が見える。
それは、幼いころ、添い寝の祖母から、いつも子守歌のように聞かされたことだった。
うちの裏の、あの山を一つこえれば、海が見えるんだよ、と。
その、山一つ、という言葉を、少年は正直にそのまま受けとめていたのだが、
それはどうやら、しごく大ざっぱな言葉のあやだったらしい。
現に、今こうして、峠を二つ三つとこえても、まだ海は見えてこないのだから。
それでも少年は、呪文のように心に唱えて、のぼってゆく。
あの坂をのぼれば、海が見える。
のぼりきるまで、あと数歩。半ばかけだすようにして、少年はその頂きに立つ。
しかし、見下ろす行く手は、またも波のように、くだってのぼって、
その先の見えない、長い長い山道だった。
少年は、がくがくする足をふみしめて、もう一度気力を奮い起こす。
あの坂をのぼれば、海が見える。
一昔前の国語の教科書から抜粋いたしました。
あの坂をのぼれば・・・海が見える
しかし・・・果たして海は見えたのでしょうか?
いやいや・・・そんなことはありません。坂を登れば・・・次の坂道なのです。
しかし、くだってのぼって・・・その先の見えない、長い長い山道も・・・
きっと・・・この先に、いつか海が見えると・・・もう一度気力を奮い起こして・・・歩き続けるのです。
とりあえず、中学校に入ったら・・・
とりあえず、高校に入ったら・・・
大学にはいったら・・・
その都度その都度・・・新たな課題・・・坂道がやってきます。
この問題を乗り越えたら・・・この成長を遂げたら・・・
またまた・・・新たな課題・・・坂道がやってきます。
きっときっと・・・臨んだものが見えるのです。
そう信じて、私たちは・・・ただ少年のように信じて・・・・いくつものいくつもの坂道を乗り越えます。
子どもたちは・・・
少しでも将来に繋げられるように・・・夜遅くまで、試験勉強をする高校生。
この高校生も・・・少し前は、あこがれの高校に入るために・・・いくつもの坂道を・・・
ある保護者は・・・
子どもが、少しでも・・・生きる力をつけようと・・・自立心をつけようと・・・
必死に、家族で坂道をのぼり・・・のぼった先に、また新たな坂道が・・・
私たち指導員は・・・
いつか・・・絶対に海が見える道へ案内し・・・
坂道を乗り越え・・・絶対に海が見えることを信じる力を与えて・・・
また、私たちもともに坂道をのぼっています・・・
のぼって・・・くだって・・・
いつか・・・大きな大きな海原が拡がることを・・・
ハイキングのような・・・楽しいものではないかもしれませんが・・・
いつか海が見える日を夢見て・・・ともに歩みましょう。
坂道をのぼり続けること・・・これが生きるということなのではないでしょうか?